医療情報技師の記録

システム管理者として働く病院職員の記録です。

導入(第2段階)

 前回のインフラ整備で書き忘れたのですが、電源の確保も行いました。サーバー室、及び各外来診察室への電源を追加しました。電源については当初、予算として考えておりませんでした。結構な金額がかかりますので、ご注意ください。

 では本題です。12月に入り、いよいよ本格的な導入作業に入ります。気合いを入れ直してスタートが切れるよう、キックオフミーティングを開催しました。病院から各部門の代表者、メーカーからは導入に関わるメンバーが参加し、顔合わせをしました。これで職員のモチベーションが上がったとは思いませんが、最低でも「ここまで来たらやるしかない」とは思ったことでしょう。

 キックオフ後は、もう止めようのない怒涛の波が襲ってきます。覚悟はしておりましたがまさかこれ程とは、、、、その辺の話は後述。

 まず、院内の運用を決めるため、各部門ごとに何度も何度も何度も打ち合わせをしました。打合せのスケジュール管理は、我々システム担当者の仕事です。話がまとまらず、ここで決めないと全く進まないという状況もあり、正直、半ば強引に決めてしまった事も多々ありますが、そういう対応も必要になります。これを繰り返し、運用を徐々に固めていきました。電子化する業務、紙運用のままでいく業務等、徐々に決まっていきました。最後まで悩んだ入院看護記録については、電子化することで決定しましたが、医師記録については紙カルテ運用にし、電子カルテ運用は見送ることになりました。(将来的には電子カルテ運用にする予定です)

 特記事項として、メーカーの作業部屋の確保を挙げておきます。当院代表者より「メーカーさんが快適に作業できる環境を用意しなさい」とお達しがあり、早速施設課に相談し準備しました。使用していなかった病棟の病室を作業部屋、隣の病室をハードウェア保管庫、ナースステーションを打ち合わせ及び研修部屋としました。作業部屋には冷蔵庫と専用の院内PHSも準備しました。メーカーのPMからは「全く用意していただけない病院もあるので非常にありがたい」という感謝の言葉をいただきました。決してメーカーの味方をするわけではありませんが、快適な環境で仕事をしていただくことで、進捗や品質も変わってくると思います。さらにメーカーとのコミュニケーションと信頼関係も非常に大事であると実感しました。

インフラ整備

 インフラの整備。こちらも重要な事項となります。当院では、既に院内LANはありましたが、電源と併せとてもオーダリング・電子カルテに耐えうるものではなく、見直す必要がありました。

 それまで、ネットワークについては、「事務用」「医事会計用」「インターネット用」「各部門システム用」と別れており、「事務用」と「医事会計用」についてはファイルサーバーとグループウェア共有の為に連携しておりました。(L3ではなくサーバーへNIC2枚刺し)今回、その形式をすべて捨て、新たにネットワークを組みなおすことにしました。ただし、院内セキュリティポリシーにより、インターネットは物理的に切り離すことになっておりますので、今までの回線を使用します。

 今回は、L3で各ネットワークをVLAN化しルーティング、さらにAPを設置し無線化も行いました。基幹は冗長化し、ネットワーク監視ソフトも入れることにしました。APの数も多く、将来の電子カルテ化を考えると、サブネットマスクが24ビットではIPアドレスが足りなくなると考え、23ビットにすることとしました。

 大変だったのは、ネットワークの工事対応です。病院ですから、工事を平日や夜間に行うわけにはいかないですし、業者に勝手にやってくださいというわけにもいきません。結局、1ヵ月の間、休日の工事にに立ち会う形で何とか完了しました。ただし、工事はコアスイッチ~フロアスイッチ~エッジスイッチまで。その先は全て我々システム管理部門で行うことにしました。そのために、LANケーブル自作キットも購入しました。その作業は、最終的にハードウェアを搬入する直前に行うこととなります。

導入スタート(1段階目)

 いよいよメーカーが確定し、導入のスタートです。しかし、本格的なキックオフを行う前に色々と準備があるので、導入1段階目とします。

 最初にメーカーから要請されたのは、現在の運用で使用している紙媒体の洗い出しでした。現在の運用で、どの部分をシステム化できるかを判断する為です。各部門から集まってきた書類をファイリングし、抜けがないかどうかを診療情報管理課に確認してもらい、メーカーに提出。そこから洗い出しの作業が始まりました。今回導入するシステムは、病院側で用意した書式(Excel形式)をそのままシステム帳票として使用できるようになっております。そこに表示する情報も、病院側でカスタマイズできるため、非常に便利ではありますが、現状使用している書式が、Wordで作成してあったり、紙しかない書類も大量にあり、ここからExcelで作り直す業務が発生しました。

 続いて、現在の運用を確認するために、メーカーによる各部署のヒアリングを行いました。我々システム担当者もできる限り同席し、運用の把握に努めました。

 それと並行して、職種・部門別の勉強会、及びパソコンの苦手な方へのパソコン初心者研修を開催しました。それにより、徐々にスタッフのモチベーションの底上げを図っていきました。この間、約2ヶ月です。

病院見学(2回目・3回目)

 導入メーカーが決まったところで、さらなる情報収集として、病院見学をさせていただくことに。1回目は、車で2時間程かかる病院様でしたが、2回目・3回目は同じ2次医療圏内の病院様へお願いしました。

 まず、2回目ですが、オーダリングのみ運用で電子カルテはまだですが、入院の看護記録は電子化している病院様でした。当院では、基本的にはオーダリング運用から電子カルテという段階導入を考えておりましたが、この病院様の運用を見たことで、初めから看護記録は電子化する運用も有りであるという考えが生まれました。

 続いて3回目です。こちらは、導入が決定したメーカーCの医事会計システムを導入している病院様です。当院では、オーダリングシステムも医事会計システムもメーカーCのものを導入することになりますが、こちらの病院様は、オーダリングシステムは別なメーカーのもので、データ連携して稼働しておりました。オーダリングシステムを導入することで、医事業務がどう変わるのかを重点的に確認して参りました。

 これで3つの病院様を見学させていただいたわけですが、やはり三者三様であり、その病院に合った運用を考えていかなければならないと実感致しました。システム管理部門についても、システム管理業務のみを専門でやっている病院、何でも屋として色々な業務に携わっている病院と様々でありました。

 今回見学をさせていただいた内容は、当院としての方向性を決めていく上での重要なステップだったと考えます。今後、HIS導入を考えている病院様は、是非複数の病院を見学することをお勧めします。

コンペティション開催

 いよいよ導入するメーカーを決めるべく、コンペティション(以下コンペ)を開催することになりました。

 コンペの参加条件として
1.日時
2.プレゼン時間
3.プレゼン内容
4.参加人数
 を指定させていただきました。

 発表順や参加人数の変更を要望してきたメーカーもありましたが、公平を期すために要望はお断りさせていただきました。

 病院からは、経営層及び各部署の代表者(導入委員会)が参加し評価します。評価項目は「システム内容」「導入実績・信頼性」「導入に関わる人材の質」「導入サポート」「導入後サポート」「提案の妥当性」で、各項目に「重み付け」を設定しました。

 そして「デモのアンケートによる現場職員の評価」「コンペによる委員会の評価」「見積もり」によりメーカーが決定されることとなりました

 やっと決まると安心していると、コンペ終了翌日から、メーカーの怒涛の営業攻撃が襲ってきます。その攻撃の中で、ある一社が信用を無くす発言をしてしまい一歩後退。

 そうこうしているうちに、評価結果が。しかしこの時点で決定までは至らず、4社の内から2社が残り、経営層への最終プレゼンを行うことになりました。ちなみに、選定されなかったメーカーへのお断りの連絡は、我々システム担当が行いました。いやな役目ですね。

 結果は・・・・Web型のシステムを提案したC社に決定しました。

 ここまでが8月の段階です。

部門システム連携

 オーダリングシステムを導入するうえで、各部門システムとのデータ連携は重要な事項となります。接続しなくとも運用は可能ですが、導入効果がまるで変わってきます。コメディカルスタッフの導入にかけるモチベーションも違ってきます。

 当院では、既に稼働している部門システム「調剤システム」「検体検査システム」「PACS」とオーダリングシステムを連携することにしました。(医事会計は選定するメーカーにより変動、その他追加システムは無し)「PACS」に関しては「RIS」(画像情報システム)の導入も検討しましたが、今回は見送りまして、各モダリティとの接続は「MWM管理サーバー」の導入としました。

 各部門システム連携で注意しなければならないのは「費用が非常に高額である」ということ。オーダリングシステムの見積もりを取って安心していると、部門システム連携の見積もりで唖然とすることになります。予算取りは「オーダリングシステム」だけではなく「部門システム連携」や「インフラ整備」等が高額になると覚悟して、経営層には伝えておく必要があります。

 部門システム連携費用については、メーカーの「言い値」になる場合もありますから、見積もりをきっちりと精査し、予算内で収まるよう交渉します。交渉は病院によっては購買部門が行うこともあると思いますが、当院では全て我々システム担当者が行いました。その中でも画像モダリティの接続は、各メーカー毎に見積もりがきますので大変かと思います。

システムデモ開催

 前述で候補に挙がった5社のシステムを実際に確認する為、各メーカーにシステムのデモを要請しました。ここで、5社のうち1社が販社とメーカーの連絡ミスがあったようで、脱落。残り4社でデモを行うこととなりました。

 4社のシステムは、「サーバー・クライアント型」と「Web型」のシステムに分かれます。この差については、私共システム管理者にとっては重要な差になりますが、使用する現場にとってはあまり気にすることではないようです。

 デモは、1日1社、時間割を作成し職種別に行いました。その際、参加者には【視認度】画面の見易さ、見ただけである程度判断がかのうかどうか?【簡易度】操作が複雑ではなく分かりやすいか?【利便度】操作上の不便を感じないか?等のアンケートを実施しました。システムのレスポンスについては、デモ機での操作の為、判断はできませんので除外しました。この時点でメーカーを確定するわけではありませんが、今後選定していく上での大きな材料となります。

 デモの内容については割愛しますが、回収したアンケート評価では、大きな差はなく、「どのメーカーでもやれることは大体同じ」「システムよりも導入サポートが手厚いメーカーにするべき」との意見が多くみられました。