医療情報技師の記録

システム管理者として働く病院職員の記録です。

本稼働~1ヶ月

 いよいよ5月2日の外来本稼働です。メーカーから10名以上の導入支援メンバーが集合し、各部署に配置されました。我々システム担当も各部門に散らばり問題があれば即対応できる体制を取りましたが、システム関係・操作関係についてはほぼメーカーさんが対応してくれましたので、我々は患者様を少しでも回すための業務に徹しました。カルテ出しは勿論、患者様の呼び込みも行いました。

 スタート直後、前回処方Doについて問題が発生。4月の診療報酬改定により湿布等の外用薬の処方箋に1日の用量の記載が義務化され、そのまま前回Doを出すことができなくなっておりました。前回処方データで抜けているものもあり、それらに対応するため、私が稼働1ヵ月の間ほぼ外来に常駐し、処方についての対応業務を行いました。ちなみに前回処方や過去データ参照用に、旧医事会計システムも残してあります。

 過去のデータから稼働当日の外来数を予想しておりましが、想定よりも50名ほど多い来院数となりました。しかし、大きなクレームもなく、なんとかこなすことができ、初日としては及第点を取れたと思います。メーカーの話でも、稼働日初日でここまで混乱が少ないのはめずらしいとの事でした。

 そこから2週間はメーカーの支援部隊が居てくれたのですが、それ以降は導入メンバーの4人のみとなります。最終的に1ヵ月後からは我々だけで運用していかなければなりません。それまでにシステム管理者として覚えておかなければならないことは大量にあったのですが、現場を回すだけで精一杯でした。結局、システムの設定やパラメータ、マスターの管理方法を学ぶだけで1ヵ月が経ってしまいました。

 患者様からのクレームが少なかった反面、多かったのは職員からのクレームです。今までとやり方が全く変わるわけですから、うまくいかなくなるとちょっとしたことでシステム管理者にクレームが入ります。システムとは全く関係ない運用に関わることや、理不尽な内容でもシステム管理者にクレームが来ますし、パソコンが苦手な職員からも恨まれているかもしれません。しかし、これは仕方ないことだと思ってやっていくしかありません。正直結構つらいです。

稼働直前準備

 稼働直前はハードウェアの準備が主となります。外来診療終了後に各診察室へ設置していきます。システム担当が指示をしながらメーカーが設置し、動作確認を行います。ここで問題が2件発生。まず、外来診察室に設置したクライアントの1台が起動せずリカバリー作業が必要となりました。もう1件は、十分に準備したと思われた現場用のLANケーブルが足りなくなってしまい、急きょ自作し事なきを得ました。ちなみに、今回の導入でLANケーブルの自作スキルが大分上がりました。

 稼働開始は5月1日です。幸い日曜日ということで、外来は救急のみですが、0時に運用を切り替えますので、当直担当者と病棟夜勤看護師への対応も必要となります。メーカーのPMが泊まって対応してくれるとの言葉に甘えさせてもらいましたが、我々も気になって仕方ありませんでした。もうこの頃には食欲もなく、栄養ドリンクやビタミン剤等でつないでおりましたが、稼働日直前は稼働後の体力回復に努めたほうが良いと思います。

 もう一つ忘れてはならないのが、患者様への告知です。システムが導入され、運用が変わること。何のためにシステムを入れるのか。操作が不慣れなうちはご迷惑をおかけすることのお詫び。等を盛り込んだポスターを作製し、院内の至る所へ掲示しました。特に外来の待合には、大きく目立つように印刷しました。

 ここまでやれることは全てやりました。いよいよ稼働開始です。

外来全体リハーサル

 稼働日も迫ってきたところで、外来の全体リハーサルを行いました。各部門のミニリハーサルも行いますが、外来の流れ全体を通してのリハーサルになります。2回行った分の1回目ですが、まず外来の看護師長にシナリオを20個程考えてもらいました。各部門には担当者リストを提出してもらい、患者役も必要ですのでその協力要請も行います。前日に各部署へ必要端末を設置(終了後撤収)し、各担当者へシナリオを渡し、いよいよ開始です。

 ・・・これがひどいものでした。受付に時間がかかる、診察~オーダーに時間がかかるのはまだ想定内でしたが、問題は処置室。採血や注射の受け・実施が全くうまく回らず、患者様が検査やレントゲン部門に全く流れていきませんでした。結局2時間やって会計まで回ったのは2名のみ。最悪な結果となってしまいました。反省会を行いましたがかなり重い雰囲気で、ある部署はメーカーの責任にする始末。私の中でポッキリと心が折れる音がしました。

 しかし、そんな自分を当時の主任とスタッフが救ってくれました。2人はまだまだあきらめておらず、部署長として情けない姿を見せるわけにはいきませんでした。

 そこで、自分は大きな決断をしました。問題であった処置室の運用を変えることです。将来の電子カルテ運用を見越した形で、処置室の受けと実施をシステム上で行うとしていましたが、その為には看護師が都度システムへログイン・ログアウトをしなければなりません。しかし、その作業が回らない原因であると判断。その運用を捨て、今まで通りカルテへサインをする形に戻すことにしました。「まずは患者様を回すことを優先しよう。電子カルテに向けての運用はそのときに考えよう。」という考えに看護師長も賛同し、2回目のリハーサルはその運用で行いました。

 決してうまくいったとは言えませんが、1回目と比べて段違いの出来でした。そこから稼働日までミニリハーサルを重ねて、本番を迎えることとなります。

事前データの準備

 正直、この事前データの準備が一番大変でした。旧医事会計からは患者基本情報しか移行できませんでしたので、それ以外のデータ準備が必要となります。

 まず、処方のデータですが、最低でも3カ月分は入力しておかないと前回Doができず、ドクターに多大な負担を掛けてしまいます。最初の予定では、稼働3カ月前からは医事課で入力する予定でした。しかし、事情がありそれができなくなってしまい、システム担当でもそれを行う余力はありませんでした。そこで、派遣会社に委託し入力をお願いすることとしました。しかし、入力した内容のチェックは院内でやらなければならず、事務部門全体にチェックの協力を要請しましたが、やってくれたのは少しだけ。結局我々システム担当が夜遅くまで残ってやるしかありませんでした。派遣会社との契約も稼働日までは継続できず、最終的には入力までも行わなければなりませんでした。

 さらに稼働直前の入院患者様関係のデータ入力も大変でした。実際は看護部がやらなければならないのですが、こちらも事情があり準備が間に合わず、我々が行うことに。(栄養士や薬剤師は協力してくれました)稼働日に問題なく始められるよう、こちらも夜遅くまでデータの準備を行いました。この頃の記憶はあまりありません・・・

 その他、以前は連携していなかった検査システムやPACS、調剤システムの患者データに差異がないか、矛盾があった場合の修正等も行いました。

 今まで「何でも屋」としてやってきたシステム管理部門ですが、さすがにこの時期は他部署も気を使ったのか、システム導入関係以外の業務依頼は減りました。

操作研修開始

 2月に入り、いよいよ操作研修が開始されました。各部門ごとに時間割を作成し、研修室へ研修用端末を準備しました。ここで、1つ問題が。講師となるメーカー担当者のやり方や能力にかなり差があるということ。操作に関してはプロフェッショナルであっても、実際の医療現場を把握できておらず、受講者に伝わらないことが多くみられました。それ以外にも「こちらをクリックしてください」と言ってクリックしてしまう講師。受講者が画面を見たときには画面が変わってしまって、どこクリックするか分からん・・・という事も。その辺については、改めてPMへ相談し、是正していただきました。システム担当者としては、全部の研修会へ参加し、操作を習熟しなければならないのですが、マスター作成やら帳票作成やらセット登録等、やることが無限にあり、とても参加できる状況ではありませんでした。

 それでも研修の時間は全く足りず、特に病棟看護に関してはこの研修会だけでは不安が残りました。そこで我々システム担当のスタッフが「補習」を提案・実行してくれました。おかげでなんとか稼働までこぎつけることができました。

ハードウェアの準備

 サーバーを含むハードウェアの準備については、基本的にメーカーが行います。しかし、運用後の管理は自分たちで行わなければならなくなりますので、今回導入したシステムとハードウェアの概念は学んでおく必要があります。例えば、帳票を出すレーザープリンターは各端末にドライバをインストールする必要があるが、オーダーシールや注射ラベルを発行するラベルプリンターは全てサーバー側で管理する・・・等。

 サーバーの搬入は、年末~正月にかけて行いました。それに合わせて、新ネットワークの切り替えも行いました。特にネットワークの切り替えには神経を使いましたが、大きな問題もなく一つ山を越えました。ちなみにサーバーは48Uのサーバーラック2台(あるメーカー様から中古をご提供いただきました)にラッキングしました。

 サーバー稼働後は、クライアントの準備になります。見積もり時点での台数・配置はあくまでも暫定であり、実際に必要な数は変わってきます。特に、当初は看護記録までは電子化しない予定だった為、病棟で使用する端末が全く足りなくなってしまいました。しかし、病院の方針で看護基準を13:1から10:1に変更することになり、1病棟を休床としたため、その分を流用できることに。その他、各部門・各部署からは増設の要望が多く入りましたが、まずは最小限の追加で運用していただくようにお願いしました。

 オーダリングの端末については、Web型でライセンスフリーの為、病院側での設定・追加が容易になります。(ウイルス対策ソフトやATOK、CALは購入する必要あり)ワークグループで事務側と共用することも可能ですが、どうしてもレスポンスが悪くなるため、ドメイン参加でオーダー専用機とする形が主となります。

 外来診察室と病棟にはPACSの高精細モニターを設置します。オーダー側とシングルサインオン運用を行うため、オーダーの端末にグラボを追加し、そこへ高精細モニターを接続する形をとりました。

 この時点(1月)ではサーバー以外、現場に端末は設置しておりません。

マスター作成

 マスターの作成。この業務は、HISを導入するうえで避けては通れない大変な業務です。システムに合わせたマスターを作成する必要があり、親項目・子項目、もっと細かい設定もあります。画像、検体検査、生理検査、薬剤、注射、給食に関しては各部門担当者が、非常に苦労しながら作成しました。その中でも特に、給食(食事)マスターは数が多く、担当した栄養士は大変だったと思います。

 処置、看護(観察)(行為)、看護計画、職員、その他細かいマスター作成については、事情があり、我々システム担当者が行うことに。これが大きな間違いでした。正直、どんな事情があろうとも、どんなに現場から反発されようとも、マスターの作成は実際に使う現場が行うべきです(特に看護系と処置関係)。システム担当者が作成してしまうと、結局作り直しになり、膨大な仕事が無駄になってしまいます。

 ただし、運用開始後のマスター管理(追加や修正)についてはシステム担当者でも良いと思います。